最近コラムに書く様なネタが思いつかないと、
バー「湖畔」のマスターにぼやいていたら、案の定ピシャリとやられてしまった。
「お前の書く内容はほとんどの事に対して否定的なんだ。
そんな書き方をしていたんじゃ、そりゃ疲れも来るだろうよ。
まぁ、もっとも若いうちはそういうもんなのかも知れないけどな。」
マスターに言われる前から薄々感づいてはいたが、まさにそうなのである。
最近の私は見るもの、感じるもの全てに否定的な印象を捨てきれず、
それをそのまま書いても、決して読者の共感は得られないと分かっていつつも、
その様な事しか書く内容が思い浮かばないのである。
JRA賞が発表されれば、毎年議論の種になる記者投票の在り方であるとか、
最優秀2歳牡馬には自動的に朝日杯優勝馬が選ばれる事であるとか、
最優秀障害馬部門の投票に毎年「該当なし」と書く記者が多数いるとか、
そんな事ばかりに目が向けられてしまい、
受賞馬に対して素直に祝福する気持ちが心の隅っこに追いやられてしまっている。
競馬場へ行ったら行ったで、
「座り込み禁止」エリアの階段や通路に新聞紙やビニールシートを敷き、
まるで遠足気分の客を見て眉間に皺を寄せてしまう。
あんなに空気の悪い場所に小さな子供を連れて来ている親に対し、
怪訝な表情を浮かべてしまう。
競馬は面白いが、それに付いてまわる話題というか、環境というか、
そう、世間一般でいう空気というものになんだか嫌気が差してしまっているのだ。
そんな内容をだらだらと書いても読み手は面白くないだろうし、私も気分が悪い。
「競馬を始めた頃は、もっと夢中で、純粋だった気がするんだけどなぁ。
悪く言えば、単に周りが見えていなかっただけなんだけど、
あの頃はもっと楽しかった気がするんだよなぁ。」
そう私がひとりごちたのを聞いて、マスターがもう一言だけヒントをくれた。
「そうと分かっているなら、その頃に戻ればいいじゃないか。
馬券を当てる事にのみ、ひたすら集中する。気合だけじゃなくて体力も必要だな。
それが無理なら、どうせ競馬なんて長続きしないよ、とっとと引退しちまえ。」
引退。その言葉を聞いて、私は正直ゾッとした。
もし競馬をやめたら、私には一体何が残るというのだろう。
何もかも中途半端で、人より抜きん出ているものはこれといって無く、
少々自信が持てる事と言えば、競馬をおいて他には思いつかない。
楽しめないなんて、甘ったれた事は言っていられない。
無理やりでもいい。もう一度、気合を入れなおそうと思う。
「マスター、ギネスを。それから」
グラスを受け取ってから、私はマスターに対してではなく、
おそらく自分に対して、こう言った。
「今週のAJCCで勝負しよう。久しぶりにサシウマだ。」
マスターは笑ってくれた。
→過去の記事
|