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2021年03月28日15:16 競馬Masters RSS




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[ 関谷泰正 ] 競馬場へ行こう - バローネおじさん

 

久しぶりにバローネおじさんと出会った。

11月18日、晴れ。この日のメインレースは東京スポーツ杯。
土曜日ではあったが、東京競馬場はこの日も多くの競馬ファンでにぎわっていた。

自分が座っている場所から5つ席をはさんで、おじさんが佇んでいる様子を私が
発見したのは、3レースのパドックがターフビジョンに映し出されている頃だった。
最初は、おやどこかで、といった感じだったが、
くしゃくしゃのダービーニュースと昔ながらの赤鉛筆を見たら、
昨年行われたある障害レースを思い出す事が出来た。

「おじさん、お久しぶり」
私は自分でも驚くくらい、気楽に声をかけられた。
「もう忘れちゃったかもしれないけど、去年3月のペガサスジャンプステークス、
おじさんのお陰で儲けさせてもらったよ。
あの時お礼が言えてなくて心残りだったんだ」
そこまで聞いて、おじさんは初めて私の事を思い出した様だった。
「ああ、あのときの」

昨年3月26日、中山第8レース、ペガサスジャンプステークス。
障害レースは常にケンだった私に、おじさんは自分から自慢気に話しかけた。
「この12番の馬主さんは、俺の知り合いなんだよ」
12番はバローネフォンテン。△が少しちらついている程度の人気だった。
「こいつぁ飛越が上手い。山本とのコンビなら、ここでもいけるぜぃ」

こういう縁があった時、私は必ず勧められた馬を買う様にしている。
そのおかげで、今もこうして思い出に浸りながらキーを叩ける。

直線。バローネフォンテンが内からスルスルと抜けて来た時は本当に興奮した。
単勝で2020円。異常人気をしていたフォンテラとの馬連は6080円ついた。
コース脇の柵にかじりついてレースを見終えた後、
スタンドに戻っておじさんにお礼を言おうとしたら、
おじさんはどこかへ行ってしまっていたのだった。

「あれはホントに美味しかったよ。今更だけど、ありがとう。
そういえば今日、久々に走るじゃない、バローネフォンテン。
脚部不安から約1年ぶりかぁ。今日は買えるかい?」
おじさんは泣いているように笑って、こう答えた。
「今日はダメだよ。さすがにいきなりはダメだって」
返答を聞いて何故か私は、おじさんは今日もバローネを買っていると思った。
私も少しだけ付き合ってレースを観戦したが、バローネは見せ場無く敗れた。
「やっぱり今日は、ダメだったかぁ」
その言葉を最後に、おじさんはまたどこかへ行ってしまった。

あれから1ヶ月。バローネフォンテンの次走は暮れの大一番、中山大障害である。
もう山本騎手は別の馬に乗ってしまうし、
何よりあの久々のレースでの大敗見る限り、勝つのはかなり厳しいと思われる。
しかしながらおじさんとの縁を思うと、どうも私は買わずにいられないのである。

ペガサスジャンプステークスが終わった後、おじさんはいなくなってしまったが、
実はしばらく経ってから赤い顔をしてスタンドに戻ってきたのだった。
その時の、ワンカップ片手のおじさんの姿は、
まさに競馬場のBaroneといった風情があった。

 

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