「競馬の予想屋と小説家の共通点ってのは、想像力だと思うんだ。」
ちょっとした思い付きを簡単に口にしてしまう程、私は酔っていた。
春、ドリームパスポートに稼がせてもらった今年の黒字が、
とうとう底をついてしまったのが悔しかったのではない、
というのはもちろん強がりに決まっている。
負けて悔しくなければ、それはもはや競馬では無いだろうと、
自分の情けなさを無理矢理に正当化するのも、酔っ払いの悪い癖であろう。
「かの寺山修司はよく言ったもんだよ。
競馬に行って、1円でも金を持って帰れば、それは勝ちなんだってな。」
今日も閑散としているバー「湖畔」で、マスターは今日も無口だ。
しかし私の口から偉大なる歌人の名がこぼれ出てからは、
少しは私の相手をしてくれる様になった。
「で、お前さんはその想像力とやらで、競馬に勝ってるのかい?
今度のジャパンカップは何を買おうっていうんだい?
いいか、予想と想像は違うんだよ。
若い奴はその辺を勘違いしてる奴が本当に多い。
中には予想も想像も放っぽりだして、理想にふける奴もいるがな。」
先週の一件から、マスターは妙に手厳しい。
全くこれが客に対する態度かよ、と毒づきつつも、
競馬の話を落ち着いて出来る店を、私は他に知らなかった。
「ジャパンカップは何を買うかって?
そんなもん本命は決まっているさ。
ドリームパスポート。今度は勝てる。
ディープ、ハーツ、ウィジャボードは揃いも揃って万全では無い。
ドリパスの最大の敵は、同じ舞台で一度負けているサムソンだろうよ。」
私はギネスをぐびりとやって、興味本位で聞いてみた。
「なぁマスター。
俺みたいな若い奴に偉そうに講釈たれてるけどさ、
そういうマスターの予想はなんだい?ぜひ聞かせておくれよ。」
するとマスターは、無表情なのか怒っているのか、
どちらとも判断しかねる表情で、ハッキリと言った。
「ドリームパスポートだよ。
予想と想像と理想。何年やっても俺には無理かもしれないな。
競馬は本当に難しい。
でも、それが俺たち馬券を買う者にとっての、競馬なんだ。」
はいはい、しゃらくせぇオヤジだ、まったく。
→過去の記事
|