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2021年03月28日15:16 競馬Masters RSS




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[ 関谷泰正 ] 競馬場へ行こう - スタイルを変えるという事

 

「短距離の走り方ではなかった」
アイビスサマーダッシュでステキシンスケクンの手綱を取り、
12着と敗れてしまった後藤騎手がレース後に述べたコメントである。
私は新聞でこの文章を読み、ちょっと待ってくれと言いたくなった。

ステキシンスケクン。
アーリントンCでは、後のG1馬ロジックを含む他馬を抑えての重賞制覇。
皐月賞でも3角まではハナを切り、そのスピードをいかんなく発揮。
世代を代表するスピード馬である事は疑いようも無いと思っていた。
そんな馬の走りが、「短距離の走り方ではなかった」のである。

「皐月賞が余計だったのさ」と言ったのは友人K。
「アーリントンCまでは、馬が活き活きしていたよ」

Kは学生の頃、野球部に入っていた。ポジションは投手。
恵まれた体格では無かったが、そこから繰り出される速球はとにかく速かった。
実力は確かだったが、部には他にエースがいた為、
Kは試合後半の切り札的存在だった。
リードしている試合で後半ピンチを迎えると、そのマウンドにはKが立ち、
相手バッターを得意の速球でバタバタと仕留めるのだった。

そんなKに、ある日監督が声をかけた。
「先発をやってみないか?」
Kは内心複雑だったという。
自分には長いイニングを投げるだけのスタミナは無い。
それ以前に、1球に全力を込める投球スタイルこそが、
自分には合っていると信じていたのだった。

それでもKは全力を尽くした。
スタミナを温存した投球というものを、手探りで見つけようとした。
慣れない先発の舞台に立って、全力で、力を抜いて、投げた。
Kは試合中盤で相手打線に捕まり、試合は敗れた。

それからのKは、再びリリーフの立場に戻ったそうだが、
かつての速球はもう投げられなかったそうだ。

「難しいもんだね。
  いつでも前のスタイルに戻せるつもりだったけど、
  どういう訳か、全力で腕を振れなくなっていたんだ。」
うつむき加減でつぶやくKだったが、今は良い思い出だという。
「まぁあれも良い経験だったよ。
  視野が広がったと言えば言い過ぎかもしれないけれど、
  とにかくあの日のマウンドも、今の自分には欠かせない記憶かもなぁ。
  シンスケクンも、いつの日か、皐月賞での走りを糧として欲しいもんだよ。」

Kは今年で24歳になった。会社員として、忙しく退屈な日々を送っている。
野球はもう、やっていない。

 

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